東京都江東区にある「くじらホスピタル」(92床)は、開院した2006年から、精神病床を持たずに精神疾患患者らの入院医療に取り組んでいる。同病院を運営する青峰会の上村神一郎理事長は、鍵が掛かる隔離室などがない環境で療養すべき患者もいると考え、同病院を立ち上げた。14年からは「地域包括ケア病棟」を開設し、リハビリテーションが必要な高齢患者らも積極的に受け入れている。【佐藤貴彦】

■精神科病院の開放化進めるも、見えた限界

 青峰会は上村理事長の父親が設立した法人で、もともとは愛媛県八幡浜市で精神科病院のみを運営していた。上村理事長は大学卒業後、欧米や南米の精神科医療の現場を見て回るといった経験を経て、1987年に同病院の院長職を引き継いだ。

 海外の医療現場に触れ、人格障害や摂食障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの患者の多くは開放された環境で治療を受けるべきだと考えるようになった上村理事長は、院長に就任する前から病院の開放化と入院患者の地域移行に熱心に取り組んだ。

 入院医療の質を高めつつ、精神科デイケアを開始するなどして地域移行を進めた結果、300床近かった精神病床数を半分以下まで削減することができた。

 しかし、開放化を進めれば進めるほど収益は悪化。必要な医療を提供し続けるため、病院改革の中断を余儀なくされる。国が開放化などの必要性を認めているにもかかわらず、診療報酬などの制度の見直しが遅々として進まないように感じられた。

 また、開放化をうたった先進的な各地の精神科病院でも、職員の反対を受けるなどして、閉鎖の方向へかじを切る傾向が見て取れた。

 精神科病院が、開放された環境で精神科入院医療を提供することには限界がある−。そう考えた上村理事長は、江東区の運河沿いに用地を取得。隔離室などを持たない一般病院を開設し、精神疾患患者に入院医療を提供し始めた。

■ホテルのような設備が可能にした手厚い職員配置

 くじらホスピタルは地上4階建て。吹き抜けの中庭を設けた開放的なデザインは「医療福祉建築賞」を受賞した。病室内の家具を1人のデザイナーの作品で統一させたり、有名メーカーのベッドを導入したりと、内装は一般的な病院よりもホテルに近い印象だ。

 開院後も設備の充実を進めており、今はスポーツジムを院内に設ける目標を掲げて米国製のトレーニング機器を購入、船便の到着を待っている。

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