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母親の不安なくし、今ある医療を守る


【第42回】阿真京子さん(「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表)

 「多くの国民はそんなに早く結論を出すことを望んでいないと思います。時間がかかっても丁寧に議論してほしいのです」―。国内で相次いだ妊婦の救急受け入れ不能の問題を受け、厚生労働省が急きょ開いた「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の会合で、一般国民を代表する委員として参加した阿真京子さんの訴えが、委員の医師や他の出席者に響いた。「たった2か月の議論で周産期医療の改善策が出るようなものなら、とっくに何かできています。国民がどういうものを求めているのか、この方向性でいいのかを自問しながら、時間をかけて議論していただきたいのです」。二児の母親でもある阿真さんは、1年半にわたり、「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会代表として、小児医療の知識や、適切な救急医療機関へのかかり方などの普及啓発活動を続けてきた。医療者には分かりやすい言葉で母親や患者側に近づいてもらうよう伝え、母親にはいきなり救急医療機関にかからずに、不安になったときにまずどこに相談すべきかといった知識を伝え続けている。医療者と一般国民の声を聞き続けている阿真さんに、どうすれば双方が納得できる医療を築いていけるのか、ヒントを聞いた。(熊田梨恵)

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<会の活動を通して>

■行政が「これじゃまずい」と気付いた
―会の活動を始めて1年半になりますね。もともと主催しているお母さんたちへの小児医療の知識の勉強会だけでなく、東京都や厚労省主催の会議の委員、講演活動など、随分阿真さんたちの参加を求める場が広がっている印象を受けます。


 行政側が、国民と交わることを求めるようになってきました。1年半前にわたしが活動をPRしようと都に一人で行った時には、「都からできることは何もありません。でも頑張ってくださいね」と言われたぐらいでした。それが、今はメールや電話などで頻繁に連絡が来たりして、市民の声を聞こうとする姿勢に大きく変わってきました。例えば、「都主催の講演会について、こういうチラシはどうか」と聞かれたりします。会のお母さんたちに意見を求めると、「デザインがかわいくない。字ばかり多くて心に響かない」と、散々な言われようでした。それを都に伝えると、最終的には内容は修正されていましたね。イラストも入ってはいましたが、やっぱりかわいくありませんでした(笑)。でも、講演会を都が主催してくれると、200人以上が来てくれます。わたしたちの会が主催では20人ぐらいが限界ですから、行政の応援が入ると活動が広がります。

―なぜ、行政側もそれほどまでに積極的になってきたのでしょう。

 市民の動きが変わらなければ、医療がパンクしてしまうと、本気で考え始めたのだと思います。今までは市民側の声などは聞く必要はないし、「広報すれば読んでいるはず」と思っていたようですが、それではまずいと気付いたのでしょう。

―お母さんたちの変化はいかがですか。

 例えば、予防接種を全く受けていない子どもがいて、お母さんは「ワクチンの副反応が怖かった」と言います。でも、予防接種を受けないで自然に罹患することと、副反応を比べると、自然に罹患する方が子どもへの影響は大きいです。このお母さんも、会の協力医の白髪宏司先生(埼玉県済生会栗橋病院副院長)から予防接種についての講座を2時間聞いたら、次の週に子どもの予防接種を受けに行かれました。こういうちょっとした情報が、一般の人に伝わっていないということが多いのです。お母さんはとても賢いです。ただ情報を知らないだけです。

■「相談」できる場所があることを知らせる
―お母さんたちが本当に必要としている情報とは、何なのでしょう。

 お母さんが不安になったり、迷ったりしたときに、「相談」ができる場所があることを知ってもらうことが大事だと思っています。医療についてのさまざまな情報を行き渡らせるのは不可能だし、不安や迷いは人や状況に応じてそれぞれ違います。本来は、かかりつけ医やそこの看護師さんに相談できるのがベストですが、そうできないときの受け皿になる相談機関として、「#7119」「#8000」【編注】、保健センターなどがあります。お母さんたちが孤立したり孤独を感じたりしないように、社会がサポートしているんだよ、と伝えてあげることが大事です。
【編注】「#7119」=東京消防庁が設置している相談窓口。救急医療機関にかかるべきか迷ったときにダイヤルすると、専門家が通報すべきか医療機関にかかるべきかなどを案内してくれる。
「#8000」=厚労省が実施している小児救急相談電話事業。休日、夜間などの急な子どもの病気への対処に迷ったときにダイヤルすると、小児科医や看護師が適切な対処方法をアドバイスしてくれる。


―母親が持っておくべき知識とは、どんなものでしょう。

 産前産後の医療・生活面、NICU(新生児集中治療管理室)がある地域の病院、高齢出産や喫煙のリスクなどの知識が必要です。ただ、そういったことを知る機会がないので、かかりつけの先生からや、母親学級、保健センターなどで教えてもらうことが大事です。

―「ちょっとした情報」の例を教えてください。

 例えば、わたしたち大人の感覚では、38度というと高熱ですよね。その感覚で子どもが38度の熱を出したら、お母さんは心配になって救急に連れて行こうとします。でも、生まれたばかりの赤ちゃんの平熱は37度台なので、38度なんてしょっちゅうです。だから、医師側からしたら、「元気で、おしっこも問題なく、おっぱいもちゃんと飲んでいるのに来ちゃったか」と、がっかりすると思います。でも、知らないがために心配で救急に来てしまうお母さんの気持ちも分かります。この、全然知らないまま母親になるということの方が問題なのです。どこかのタイミングで、「38度でも全身状態が良ければ、家で見ていられる」と聞いていれば、こうしたことにはなりません。救急外来でこんなお母さんが来てしまったら、医師は怒るのではなく、「普段の平熱から考えたら、38度は大丈夫。下痢、嘔吐を伴ったら来てね」と言ってもらえればと思います。もちろん先生方が忙しくてそれどころではないのは十分に分かりますが、「分からない」ために来てしまったお母さんは、一度理解すれば二度と同じことはしませんし、ほかのお母さんにも自分の体験談として知識を話します。母親たちの口コミに勝るものはないのですから。

■医療情報の需要と供給にミスマッチ
―なぜ、こういう情報が行き渡らないのでしょうか。

 医療に関する情報の需要と供給が合ってない、というミスマッチがあります。「#7119」なんて電車にもたくさん掲示してあるのに、目に留まらないのです。情報が欲しいときにはなく、要らないときにあるという状況になっています。「#7119」「#8000」、日本小児科学会の「子どもの救急」ホームページなどを知らないお母さんが、会にもたくさんいます。
 母親学級でもそうですね。赤ちゃんが生まれていない時に歯の磨き方を教えたり、早い時期に離乳食の知識を講義したりと、ポイントがずれています。せっかく母親になって知識を勉強しようと、聞く耳を持っている状態で来ているのに、受け手の受容体に情報がマッチしていないのです。もう何十年も母親学級のテキスト内容が変わっていない地域もあるといいます。中身を変えるのが大変なのは分かりますが、その時代のお母さんたちに合った情報を提供すべきでしょう。
 ほかにも、情報の中身が不十分ということがあります。乳児健診で聞く予防接種についての話は、「BCGはこの場所で何時から」というスケジュールだけです。なぜポリオを打たなければいけないのか、という疑問に答えていない。医療の本を読めば、予防接種を受けるのが当たり前のように書いてあり、一方で自然派の本には「ワクチンには牛のゼラチンがどうこう」と、不安になるようなことが書かれていたりします。だから、「こういうの読んじゃって不安に思う」と、かかりつけの先生に聞いてもらうよう勧めています。先生にも、不安なお母さんたちに歩み寄ってもらえればと思います。
 今、お母さんたちの間で最も関心が高いのが、本日(12月19日)から発売された細菌性髄膜炎を予防することができるHIBワクチンに関することなのですが、どこでいつから受けられるのかを聞こうと保健センターに電話しても、「HIBワクチンって何?」と職員から言われたお母さんが何人かいます。これも問題だと思います。

―必要な知識や情報を行き渡らせるために、医療側にできることは何でしょう。

 お母さんたちを育てられるのは、医師、看護師、保健師などの医療者です。かかりつけの先生からの話や母親学級、1か月検診で知識を伝えていただきたいと思います。産後にちゃんと教えてもらえる産婦人科もありますが、どこからも習わなかったというお母さんはとても多く、インターネットの情報は偏っています。医師や看護師、保健師などスタッフが連携してお母さんたちに情報を伝えている産婦人科にかかっているお母さんたちは、しっかりした知識を多く持っています。救急の先生からは、知識が十分に伝わっているお母さんのところからは救急が来ないと聞きます。だから、大変かもしれないけど、伝えてもらうことで医療現場は変わってくると思います。一番大事なのは、日ごろのコミュニケーションだと感じますね。

―医療者からは「医療の内容を一般の人に分かってもらうのは難しい」などと聞きます。

 確かに専門用語を並べられると分かりません。最初は、協力医の先生の講座でも難しい専門用語が多くて、お母さんたちがきょとんとしていたこともありました。でも、その先生も今は難しい言葉一つなく、分かりやすく話してくださいます。伝え方や言い方だけの問題であって、言っても分からないなんてことは全くありません。お母さんたちは賢いですよ。会の活動でも「小児医療」なんて言うと、参加者が全く集まりませんが、「子どもの病気」と言うと通じます。「医療崩壊、医師の労働環境改善」なんて言うと、一斉に引かれますが(笑)、「お医者さんの働き方を良くしよう」と言うと伝わります。たったそれぐらいのことですよ。

■無関心なお母さんにどこまで近づけるか
―阿真さんたちの活動は、「まず母親の不安を取り除くことが、医療の現場を改善することにつながる」という発想が新鮮です。「医師の労働環境改善」を前面に打ち出している、「県立柏原病院の小児科を守る会」(兵庫県丹波市)の取り組みとはまた違ったプロセスですよね。

 「コンビニ受診」といわれるたびに「わたしのことだわ」と思っているお母さんはいると思うんですよね。でも、お母さんの中に不安があるのに、いくら「コンビニ受診を控えよう」と言っても、どこからがコンビニ受診か分からず、どうやって控えればいいのか分からないのだから、余計に不安になって改善にはつながりません。だから、そういう不安を減らすことで正しい受診につながり、初めて医師の労働環境改善につながるのです。
 活動をしていると、よく医者寄り、行政寄り、患者会とかいろいろ言われます(笑)。でも、そもそも「○○寄り」なんてないのです。自分たちがやっていることは、医療に対して無関心な一般のお母さんにどこまで歩み寄れるかということです。講座に来てくれるお母さんには、情報は届きます。だから、本当はここに来ないお母さんたちに届けたい。それが一番大事なのです。「意識の高い人が集まって万歳」ではいけません。自分自身が、一人の母親なんだという目線を大事にし続けたいです。
 わたしたちに「『柏原の会』のように、コンビニ受診を控えようと言ってほしい」と言う医師の方もおられます。「柏原の会」の活動は医療者の心を和ませ、舛添要一厚労相の心をほぐした、素晴らしい活動です。わたしたちの活動では、ごく一部のお母さんの行動を変えるというより、不安を抱えている大多数のお母さんたちの行動を変えたいと思っています。医療を良くしていくということについては、いろんなプロセスがあっていいと思っています。


<行政の活動に一般国民代表として参加して>

■「絶対」と医療側が言っていいのか
―国の会議に委員として参加するようになられました。政策決定の場で、行政や医療者代表と接していて、どう感じますか。

 わたしたちの願いと、先生たちが「こうしてあげよう」という願いが、ずれていると感じます。例えば、「絶対受け入れる」ことを目的にした周産期母子医療センターの構想も上がっているようですが、何か違う気がします。新しく何かをつくるのではなくて、今あるものをどうやったら守れるかが一番大事だと思います。例えば、都立墨東病院の問題【編注】で、奥さんを亡くされただんなさんが「今後こういうことを絶対になくしてほしい」と「願う」のはとてもよく分かります。でも、受け入れる医療者側が「絶対」と言い切ってしまっていいのでしょうか。実際に可能なのでしょうか。10人受け入れるということは、10人出るということです。その理解を患者さんから得られるでしょうか。例えば、NICUから出て行く子どもは医療的なケアが必要です。施設の受け入れは難しいから自宅で見られるかと言われても、難しいでしょう。また、わたしが現場で働いている先生たちの話を聞いて「なるほど。これは改善しなければ」と思うところと、懇談会で議論が出るところが違うように感じます。一定の地位におられる先生たちは、現場の意見をきちんと吸い上げていただければとも思います。
【編注】都立墨東病院の問題=10月末に都内で脳出血を起こした妊婦が、都立墨東病院を含む8つの救急医療機関に受け入れを断られ、最終的に受け入れられた墨東病院で死亡した。

―行政側の姿勢はどうあってほしいですか。

 国民が本当に求めていることはこれかと自問することが大事です。客観的に見てどうなのか。早く結論を出そうとすると周りが見えなくなり、自分たちの考えだけで進めてしまう。そんなに早く結論を出すことを多くの国民は望んでいないと思います。懇談会でも2、3か月という短期間で答えを出していくようでは、付け焼き刃という印象を持たれかねません。時間がかかっても丁寧に議論することです。国民の意見をすべて吸い上げるなんて無理なので、方向性として正しいのか、「絶対に受け入れる」ということを本当に望んでいるのか、10人受け入れて10人出るということを、国民が「分かって」望んでいるのかということを、もう一度考えていただきたいです。

―国民が政策決定にかかわっていくために必要なことを教えてください。

 例えば、救命がかなわない新生児が生涯をNICUの集中治療だけで終えていいのか、「どこまで救命するのか」といった議論があります。こういうことは、医療者だけ、親だけで考えることではありません。ここに向き合わないといけない時期になっています。ただ、とても難しいことです。他人事ではなく、自分のこととして、120人に1人の子どもはNICUに入るということを、リアリティーを持って考えていくことが必要ではないでしょうか。
 墨東病院の問題以降、お母さんたちから、わたし自身に医療の現状について話してほしいという依頼が来るようになりました。さらに、これまで厚労省や国の施策なんて全く興味がなかったお母さんが、わたしが委員として出たことで、CBニュースや他のオンラインメディアを読んで感想を寄せてくれることもあります。今は、お母さんたちが「このままじゃいけない。何ができるだろうか」と真剣に考えている、とても良い時期なのだと思います。そのときには、自分たちに何ができるか、ということを話すように努めています。

■国民には必ず通じる
―国民から医療について理解を得るため、重要なポイントになってくるのは何でしょう。

 医療費増額の議論は分かりますが、国民の関心は、「医療界に本当に無駄はないのか」ということです。無駄がなく、ぎりぎりのところでやっていて、本当に増やさないといけないのなら分かります。でも、無駄があるのに増やすというのでは、国民は納得できません。「無駄なんてない」と言う医療者の方もいますが、国民に見える形で提示していく必要があると思います。国民はシビアで賢いです。きちんと話してもらえれば、必ず通じます。

―2人の子どもを育てながら活動している阿真さん。活動のビジョンを聞かせてください。

 日本は豊かな国です。皆がそれぞれに頑張れば、絶対に改善できるのに、とてももったいないと思います。日本の医療の素晴らしいところはそのままに、改善すべきところはして、未来を担う子どもたちに渡していきたいと思っています。わたしもこの活動をずっと続けようというつもりはなく、一定の期間は全力で取り組んで、今の医療を変えていきたいと思っています。10年後には「コンビニ受診」なんて言葉は死語になってるといいなと思いますね。

( 2008年12月19日 19:14 キャリアブレイン )



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